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江戸時代から生産しつづける「大館とんぶり」のブランド化とGI登録

 

大館市は、秋田県の北部にあり青森県との県境に位置 する。奥羽山脈と出羽丘陵の山並に囲まれ、その低地を 流れる米代川とそれに注ぐ中小河川の流域に開けた大館 盆地を中心に農業が展開されている。「忠犬ハチ公のふる さと」としても知られ、ハチ公を縁にして、渋谷区とは 官民一体となった交流が図られている。

JAあきた北は平成8年6月に大館市・比内町・田代町の一市二町のJAが合併して設立され、その後、行政区でも平成17年6月20日に合併が実現した(現 大館市)。

JAあきた北で生産される主な農産物は米「あきたこ まち」であり、えだまめやアスパラガス、山の芋(つく ね芋)なども盛んに栽培されている。さらに大館市比内 町は、日本三大美味鶏のひとつ比内地鶏の産地としても 知られている。

この比内地鶏や「あきたこまち」と並んで、全国にも ファンを持つ特産品が「畑のキャビア」と呼ばれるとん ぶりである。今回は、とんぶり生産の歴史やGI登録へ の取り組みを紹介する。

 

「大館とんぶり」とは

とんぶりは、アカザ科ホウキギ属の一年草であるホウキギ(ホウキグサ)の成熟した果実を加熱加工したものである。

原料となるホウキギの実は、漢方では「地膚子(じふし)」と呼ばれ、強壮、利尿作用に用いられている。かつては、茎がホウキ(箒)の材料として利用されていたため各地で栽培されていたが、現在の大館市一帯には、古 くから果実を食用とする習慣があった。

とんぶりの名の由来については「ぶりこ(秋田の県魚ハタハタの卵)に似た、唐伝来のもの」を意味する「とうぶりこ(唐ぶりこ)」が省略され、転訛したものとする秋田の方言説が有力である。

とんぶりは加工が難しいことなどから、他地域での生産が普及しなかったため、「大館とんぶり」=「秋田の特産品」として広く知られており、現在、国内でとんぶりを継続して生産・出荷している産地は大館市のみといわれている。

今回GI登録された「大館とんぶり」は、直径1~2㎜程度の粒状で、無味無臭であるが、食感を楽しむ食材として使われることが多い。「畑のキャビア」とも呼ばれるように、プチプチとしたいかにも魚の卵に感じられる歯触りが絶妙で、新物の出る10月になると、県内外の多くのファンから注文が来るほどの人気商品である。

 

「大館とんぶり」のブランド化の取り組み

昭和40年代後半、高度経済成長に翳りが見え始めた頃、当地域でも地場産業の振興が重要な課題として浮上していた。人口の流出、とりわけ若者不足で地域社会を支えるバランスが崩れ、相対的に活力を失ってきている感があった。

この地域の地場産業は「農業」であり、伝統的に米の単作地帯であったが、過疎化の波は避けられず、「米+α」の複合経営あるいは出稼ぎなどによる兼業収入によって、所得の落ち込みのつじつまを合わせるのが精いっぱいであった。理屈は抜きにして、「出稼ぎをしなくても済む町にしてほしい」「地域に活力を」と切実な声があがっていた。

そうしたなかで、JAでは、自分たちの資源・素材・人・歴史を活かし、何とかして自分たちの地域に雇用の場、働く場をつくりたいという思いから、自家消費の食材であった「とんぶり」に着目した。

JAとして、とんぶりの生産振興に力を入れたことに加え、昭和40年代~50年代にかけては、次々と市内にとんぶりの加工場がつくられ、加工用機械の開発や流通利便性の発展とともに「大館とんぶり」のブランドは、全国的に周知されるようになった。作付面積も、昭和55年当時は40haだったものが、最盛期の平成2年には95haにまで拡大し、商品として安定した出荷ができるようになった。

 

深刻な生産者の減少

しかし、農家の高齢化や後継者不足は「大館とんぶり」の生産現場にも深刻な影響をおよぼし、生産量は減少の一途をたどり、現在では20haまで落ち込んでいる。

「大館とんぶり」の場合、原料となるホウキギの種子や栽培方法、とんぶりへの加工技術は、江戸時代より親から子、子から孫へと伝承されてきており、たとえJA職員であっても種子を分けてもらえないなど、極めて新規参入がしにくい状況にあったことも、農家の減少に拍車をかけた。

また、とんぶり自体マイナーな産品ゆえに需要が不安定であるため、中国産を扱う業者と低価格で競合せざるを得ず、買取価格や小売価格の据え置きが続いた結果、栽培から加工までを担う農家の手取りも縮小していった。

後継者として期待されていた若手からは「農業で生計を立てられない」「農業を職業とする選択肢はない」といった厳しい声があがるようになり、早急に後継者を呼び戻し、新たな生産者を増やすための施策が必要となった。

 

GI登録を生産振興のきっかけに

そこで、他に類のないほど大切に受け継がれ、生産されてきた「大館とんぶり」を今後も守っていくための施策のひとつとして、地理的表示(GI)保護制度の活用に取り組むこととした。

全国で既にGI登録されていた産品は、どれも有名で生産量が多く、産出額も伸びているものばかりであったが、当地域でしか生産されていない「大館とんぶり」は、まさにGI制度の趣旨に沿うものであり、近年、伝統野菜が見直される傾向にあったことからも、登録を生産振興の好機ととらえ、申請に踏み切ることとした。

JAでは、次のような内容を農家と協議したうえでGI登録申請を行うこととした。

①今後、安定的にとんぶりを生産・販売し続けるため、新たな生産者を確保する。

②「大館とんぶり」を後世に残すには、秘伝の技術を新たな生産者に伝授していくことを農家に了解していただく。

③JAは安定した所得が確保できるよう、精一杯の支援と努力を約束する。

 

GI登録と今後への期待

農家との度重なる協議を経て、平成28年7月にGI登録申請を行い、約1年後の平成29年5月に「大館とんぶり」は第32号のGI登録産品となった。

GI登録の効果は、まだ明確に現れてはいないが、JAでは、この登録を機に全国区のブランドとして育て上げ、消えかけている「大館とんぶり」生産振興と、地域の複合経営の太い柱のひとつとなることを期待している。

そのためにも、まずは消費者へのさらなるGI制度の周知が望まれるところであり、JAとしても「大館とんぶり」のブランド力強化に地域・生産者とともに取り組んでいきたいと考えている。


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